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リスニングパワー感想

NINJA

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2025/05/03(Sat)08:28

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表現

2011/10/05(Wed)06:45

 夫は樹の上にかがみ込むようにして話しかけている。小さな、ふくれっつらの、赤らんだ頬の一部がかさかさと乾き、赤い衿巻をぐるぐるに巻きつけられた樹の上に。
 私はつったってそれを見ている。自分たち三人が、いま一緒に動物園にいるということが不思議に思える。物事の順番や、原因や道理は遠すぎてさっぱり分からないと思える。
「あんたたちのやりかたは、あたしにはわからない。とっても変だよ」
 母はそう言うが、でも、人は誰だってどういうふうにかしてやっていかなくてはならないのではないか。

江國香織『動物園』

網野智世子 評価
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書き写し

2011/09/23(Fri)15:15

正直、彼女は怖かった。けれど紫のラメで縁取られたその瞳は私だけを見つめ、その言葉は私だけに向けられていた。

私はいつのまにか布団の中にいて、部屋は静まり、まどからはいつかどこかで見たような月が透けていた。枕元にはメイクを落としたアヤさんが膝を崩していて、その頬は月よりも澄み渡り、目が合うと彼女は小さくささやいた。
「今日はもう寝な。なんも考えないで」
私はうなずき、何も考えないで寝ることにした。

思わず「あ」と声煮出したほどだ。みんなの耳には母の「さあねえ」と私の「あ」が、永遠に繋がらない二つの音として残るのだろう。

森絵都 『永遠の出口』 
網野智世子 評価

No.6|つぶやきCommentTrackback